天敵カルテシステム      −カルテフォームの解説と周辺情報のデータベース−    渡邊朋也・木浦卓治・法隆大輔・北村實彬(農研センター)・三浦一芸・太田 泉(中国農試) 日本において生物農薬(ここでは天敵昆虫を示す)の導入効果がばらつく大きな原因として、栽培環境の多様性が指摘されている(田中,1999)。栽培環境にそくした効果的な生物農薬利用を進めるための一つの方策として,「天敵カルテシステム」の開発がボランティア組織である「天敵カルテ企画幹事会」で進められている(田中,1999)。このシステムではこれまでの生物農薬導入事例を,成功・失敗を問わず統一された様式(カルテ)にもとづいて収集し,データベース化しつつある。ユーザはWebブラウザ以外の特別なソフトを必要とせず,インターネットを通じて天敵名や作物名などのキーワード検索により,自分の栽培条件に類似した事例を抽出し,生物農薬導入の検討などに無料で利用することができる。現在,システムは試行段階であるが,ここでカルテフォームの解説とシステムの利用範囲を広げるデータベース群の概要を紹介し,カルテ記入とシステム利用への協力を広く呼びかけたい。 カルテフォームの構成:天敵カルテの記入用紙はA4両面1枚で,記入者情報,栽培・資材利用情報,資材処理情報,結果・考察情報から構成される。記入者情報:天敵導入,結果の判断等を行った当事者あるいは当事者からの事情聴取によってカルテに記入した者の情報であり,カルテ内容の詳細な問い合わせ等に利用される。個人情報を含むため一般への公開は記入者の任意。栽培・資材利用情報:天敵処理を行った場所,害虫,天敵,作物,栽培条件等を記入する部分。任意だが施設条件,面積,定植時期,収穫時期等も詳細に記入できる。資材処理情報:圃場管理,天敵その他の資材導入時期,投入量などを公開可能な範囲で記入できる。結果・考察・その他:生物農薬導入結果や考察を自由記述できる部分,用いた生物農薬の評価を記入する部分およびそのカルテに付随する関連情報(新聞記事,学会発表等)を記入する部分。記入されたカルテは事務局に送付された後データベースへ登録されるが,Web記入者登録を行った記入者はインターネットからWebブラウザを利用した入力が可能である。 周辺データベース:検索したカルテから生物農薬の利用方法を検討する,あるいは利用した結果を考察する際に必要となる情報群として,害虫名(和名,英名,学名)検索,捕食・寄生性昆虫文献データベース(筑波大戒能氏より提供),害虫文献データベース(大阪農技センターより提供)の公開を準備中である。今後,既に公開されている天敵関連情報,ホームページなどとの相互連携を働きかけていく予定である。