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[IPM:251] ツチマルハナバチは悪者か?
Title: ツチマルハナバチは悪者か?
IPMMLの皆様
高木@九大生防研です.
このメイルに参加されている多くの方は,ツチマルハナバチ(セイヨウオオマルハナバチ)はトマトなどの施設野菜の栽培にとって,もはや欠くことのできない資材であると認識されていると思います.また,これだけ全国で使わていても,今のところ日本の生態系や生物多様性の重大な影響を与えてはいないので,環境へのリスクは無視できると考えておられると思います.この辺の議論は静岡農試の池田さんの明解な論文が「バイオロジカルコントロール(Vol. 4, No. 2, PP29-34)」にありますので,まだ読んでない方は一読されることをすすめます.
さて,9月15日から17日まで名古屋大学で開催された日本昆虫学会第60回大会で,埼玉のシラサギ記念自然史博物館の巣瀬司さんが興味深い発表をされました.IPMML関係者で昆虫学会大会に参加した人は少ないと思いますので,以下に講演要旨を引用します.
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B205 田島ケ原のサクラソウのポリネーターは何か
巣瀬 司(シラサギ記念自然史博物館)
3年間、国の特別天然記念物である浦和市の「田島ケ原のサクラソウ」のポリネーターの調査を、浦和市教育委員会の依頼により行った。この地のサクラソウは「指定地の周辺の環境が悪化したため、ポリネーター(トラマルハナバチ)がいなくなり、クローンでしか増殖できず、将来絶滅する可能性が高い」という主旨の「話」が小学校の教科書やマスコミで紹介されることにより、有名になった。この「話」は本当なのだろうか?
荒川中流・下流のサクラソウ群落では、大野(1999)によれば、約100年前の時点でもポリネーターは極めて少ない。1980年代の生井(1989)の調査でも、薄葉(1990)の調査でも、ポリネーターはほとんど見つかっていない。
ところが、田島ケ原のサクラソウはある程度他家受粉が成されているのである。そのポリネーターは何なのだろうか?演者らの調査から、そのポリネーターはコハナバチやハナバチ、ヒゲナガハナバチなどのハナバチ類と、モンキチョウ、キタテハ、ミヤマチャバネセセリ、ホシヒメホウジャクなどの鱗翅類であろうと推定された。
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「特別天然記念物であるサクラソウの重要な花粉媒介者であるハナバチ類に多大な影響を及ぼす悪者→外国産のツチマルハナバチ」というマスコミが作り上げたストーリーの化けの皮が,地に足の付いたナチュラリストの地道な観察で一部はがれたというお話です.
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812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1
九州大学農学研究院生防研
高木 正見
TEL 092-642-3035 FAX 092-642-3040
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