天敵カルテへようこそ

ユーザのみなさん,天敵カルテへようこそ!(ver. 0004)

1/(なぜ「天敵カルテ」なのか?)
近年,たくさんの商品天敵が利用できるようになりましたが,商品天敵発祥地の北ヨーロッパと日本とでは環境がずいぶん違うため,お金を出して買った天敵が思い通りにうまく働いてくれない場合がしばしばあります。でも,生物と環境の関係は思った以上に複雑なので,専門家でもそれぞれについて原因を全てズバリお答えするのは難しい。急がば回れ。結局早道なのは,ユーザが連携して,うまく行った事例,うまくいかなかった事例(本当は,うまく行かなかった事例のほうが後で役に立つので,大切にしなければいけません)をたくさん持ち寄り,あっ,こんな場合はうまく行くんだ,こんな場合はうまく行かないんだ,というのを他の人と相談したり,自分で考えたりすることなのです。そのための舞台というか, 井戸端会議場を提供するのが「天敵カルテ」です。-----参考:注11-12.

2/(誰が運営しているの?)
2000年3月9日〜2001年2月28日の公開テストラン期間中は,この天敵カルテを立ち上げた「天敵カルテ企画幹事会」が運営します。幹事会は非営利団体(NPO)で,都道府県・農水省・大学・日本植物防疫協会・天敵企業の担当者21名で構成され,サーバ(中央コンピュータ)は農水省中国農業試験場に設置されています。2001年3月1日以降はNPOの天敵カルテ運営委員会 が運営にあたる予定です。-----参考:注21.

3/(天敵カルテはどのように使えばいいの?)
小林彰一さんの「天敵IPMガイドブック」を開いて,やさしい練習問題をひとつやってみてください。20〜30分でできて,それでだいたいカンがつかめると思います。あとは自分の興味のあるデータを集めたり,データを実際に投稿してみてください。要は「習うより慣れろ」です(笑)。なお,検索システムは非常にタフで柔軟なヤツを組み込んでいるので,使い始めたらきっと病み付きになるし,専門家にも役に立つはずです。-----参考:注31-33.

4/(天敵をはじめて利用する時,天敵利用に失敗した原因を知りたい時,そして天敵カルテの使い方そのものがよくわからない時は誰に相談すればいいの?)
まず,「IPMML」と名づけたメーリングリスト(インターネット会議室)に加入してください。申込先(問い合わせ先)はメーリングリスト管理人(2000年3月1日現在は農水省中国農試の三浦一芸さん,miurak@affrc.go.jp)です。IPMMLにメールを出すと,加入者全員に同じ内容のメールが届くしくみになっていて,質問すると加入者の誰かがアドバイスしてくれます。今後,新規加入者が増えることを想定し,ボランティアによる「天敵IPMアドバイザー」を養成・組織して,天敵をはじめて利用する人は「天敵IPMアドバイザーのメーリングリスト」にメールを出してもらうようにしたいと考えています。また,初歩的で,よくある同じような質問に対しては,自動的に適切な回答を検索して実行するシステムも整備する予定です。

5/(投稿データは悪用されませんか?)
実は,天敵カルテ立ち上げにあたって一番問題になった点で,著作権とも密接に関連します。インターネットでの著作権や悪用対処法については,その道の専門家がよってたかって議論していますが,法整備の途中で解決はついていないし,無限の穴があって塞ぎきれないし,今後も技術の発展にともなってどう展開するか正直予想しきれません。そこで,全く逆のやり方を採用し,天敵カルテは投稿データの自由利用(open data)を基本ポリシーにしました。このために投稿をためらう人が出るのは仕方がありませんが,「情報を最も多く提供するところに情報が最も多く集積し,新たな発見を提供者にもたらして有益情報を孵化させる」こともまた明白な事実です。情報を出し渋る人には誰も進んで情報をあげようとは思わない(笑)。このポリシーの「短所を補って余る長所」が将来世の中に広く理解されるものと信じています。なお,投稿データの著作権は投稿者に属するものとし,その証明方法のひとつとして,オリジナルの画像データには電子透かしを入れてあるので,予期しない深刻な問題が生じた時には対処が可能です。その他,並行して規約の整備も怠っておらず,法律専門家等のアドバイスも受けてどんどん改訂していく予定です。-----参 考:注51-53.

6/(システムの不具合を見つけたけれどどうしたらいいの?)
5/の投稿データの自由利用(open data)と並ぶ天敵カルテのもうひとつの基本ポリシーがプログラムソースの公開(open source;今注目されている Linux と同じ考えです)です。簡単に言うと,誰でも天敵カルテの改良が自由に行える,ということです。極端に言えば,非常に優れた改良を行ってユーザを全部引きつけ,商売にすることさえ可能です。もっとも,現時点では市場が小さくて全然商売にはならないから(笑),ボランティアでやっていただく場合は幹事会のシステム担当者(2000年3月1日現在は農水省農業研究センターの木浦卓治さんです)とじっくりよく相談しながら改良されると,ユーザのみなさんの感謝を最も多く集めることになるでしょう。デザインの改良も同じです。2000年3月1日時点の天敵カルテ総合メニューのデザインは味気ないくらい簡素ですが,できたらどなたかがボランティアで素敵なデザインにしてくださることを希望しています。その気になられた方はぜひお知らせください。-----参考:注61.

7/(天敵について雑誌や新聞に発表したことをみんなに知らせるにはどうしたらいいの?)
天敵カルテはその質問にピタリとあてはまる「文献データベース」のほか,「(社)日本植物防疫協会生物農薬委託試験成績集」,「害虫・天敵画像データベース」,「業界誌等マイナー文献検索データベース」,etc,も並行して用意し,天敵カルテ総合メニューからリンクできるように整備しています。また,農文協の rural network との連携も当初から構想にあり,将来は改良普及員や農協をはじめ,さまざまな関係機関との連携も行っていきたいと考えています。・・・ということは,あなたが登録してくれた雑誌・新聞記事はさまざまなところで検索され,誰かの役に立つかも知れないわけで,ぜひよろしくお願いします。

8/(利用料金は?)
肝心な話ですが,ズバリ,タダです。タダほど高いモノはないと警戒される人もいるでしょうが,サーバ(中央コンピュータ)が農水省の情報システム研究の一環として提供されており,幹事会メンバーはボランティアで,維持管理にコストのかかるセキュリティー問題を open source,open data にして格安にしたので,事実上コストゼロなのです。そして,有益な情報を提供・共有してみんなの役に立ちたい,という心によって「タダ」が支えられています。ですから,ぜひとも情報提供者としても参加してください。-----参考:注81.

9/これまでQ&A方式で天敵カルテについて説明してきましたが,なんとなくわかっていただけたでしょうか?
 それで十分です。私たち企画幹事会のメンバーも天敵カルテの将来にわたる多様な可能性は予測しきれていないのですから・・・。天敵カルテは天敵がもっと現場で普及し,また農薬やフェロモン,物理的防除資材などとも併用されてIPM(総合的有害動植物管理)が日本に根付くことを最終目的とした総合システム(コンピュータだけでなく,人材としてのユーザも何もかも含めたシステムの総体)です。単なるコンピュータプログラムでもデータベースでもありません。天敵カルテは存分に利用され,みんなによってたかって改良されることにより,ユーザを含めたシステム全体が happy になります。プルトニウムではありませんが,使えば使うほど増えるのです。このネズミ講ではない(笑)無限増殖システムにみなさんも一枚かんでいただけると幸いです。-----参考:注91-92.

2000年3月9日

天敵カルテ企画幹事会


<注11>
日本の栽培環境は北ヨーロッパに比べ,次の点で特色を持つ。①北海道から沖縄県まで気候が多様で,施設の大きさ・形状もさまざまであり,温度・湿度等の条件の違いによって天敵の活動が大きく影響を受ける。②作物・品種が多く,また同一作物でも栽培体系が多様であり,被害許容水準は大きく異なる。③施設外環境および施設の外界に対する開放性がさまざまであり,施設内外の害虫相・土着天敵相が多様で,かつ季節によって大きく異なる。④農家の害虫発生に対する寛容性が多様であり,秀品志向農家と生協出荷等の減農薬志向農家では大きく異なる。①〜④のキーワードは「多様性」である。これに対し,オランダのKoppert社等の天敵利用マニュアルは北ヨーロッパの多様性の小さい施設環境を想定しており,このマニュアルに従って日本で天敵を利用した場合,必然的に防除効果にバラツキが生じる。なお,スペインやイタリアなどの南ヨーロッパやアメリカ合衆国でも天敵の普及は順調でなく,天敵と選択的殺虫剤の併用等の試みが行われているが,この主原因は日本と同様,「多様性」にあると考えられる。天敵による防除効果は,北ヨーロッパでは確定的(deterministic),日本・南ヨーロッパ・アメリカ合衆国では確率的(stochastic),と考えるとわかりやすい。

<注12>
学会誌だけでなく普及誌においても,天敵利用の成功事例は数多く紹介されるが,失敗事例はほとんど紹介されない。失敗事例が研究や普及の成果として認識されないためである。現実には失敗事例も非常に多いが,この原因が究明されないままで放置されるため,無駄に同じ失敗が繰り返され,天敵に対する不信を招いている。失敗事例の収集と原因の解析・究明は非常に重要であり,天敵利用の促進・普及にあたっての急務である。なお,情報システム技術の進歩にともない,失敗事例の重要性が再認識され,優れた活用方法が提案されている。末尾の「補足102:知識ベース推論 vs 事例ベース推論」に別途示したので参照されたい。

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<注21>
NPOによる運営の長所は,国も含めた特定の団体の予算に依存せず,団体の政策変更の影響を受けないことである。一方,短所は,NPOの存在基盤が不安定であると,システムの維持・管理が容易に崩壊することである。また,NPOのメンバー構成が不適当であると,中立性が損なわれて不信を招き,またニーズに適合せず,システムが停滞,崩壊する。現時点では後述(8/)のように運営コストがほとんどかからないため,予算的な存在基盤に大きな問題はないが,幹事会メンバーを含むボランティアの労力が大きくなるとシステムの維持・管理が困難になるため,今後,ボランティアに幅広く参加してもらうための工夫・努力が必要である。その意味でも,また構成員のバランスを確保する意味でも,2001年設立予定の運営委員会のメンバーは,現在の幹事会のような技術中心の人材から,消費者等も含めたさまざまな分野の人材へと構成を変更する必要があり,後述(4/)のIPMML上での推薦・立候補・投票等,メンバー選任のための手続も合わせた整備が不可欠である。

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<注31>
マニュアルの良し悪しは利用頻度を大きく左右する。ビジュアル型の「できる一太郎10」や「かんたん図解Office 2000」のような練習問題を兼ねたマニュアルが爆発的に売れるのは,実用的なマニュアルに対するニーズが非常に大きいことを示している。「小林ガイドブック」は「できる・・・」型手法を踏襲しているが,ユーザの指摘に基づいたガイドブックの不断の改良・改訂と今後のオンラインヘルプ等の整備のためには,ボランティアの参加が不可欠である。

<注32>
練習問題に基づくダミーデータの投稿・表示システムを合わせて整備する必要がある。

<注33>
天敵カルテで収集したデータの研究へのフィードバックは最大の副次効果のひとつである。現状では天敵利用現場の情報は研究者にうまくフィードバックされていないが,天敵カルテの充実にともなって,栽培体系・環境や農薬等資材が天敵に与える影響や天敵が生態系に与える影響など,さまざまな問題点が研究者にフィードバックされるようになれば,研究目標が明確になり,人的・資金的研究資源の投入が効率化すると予想される。また,日本の栽培環境条件に適合した天敵の育種も活発化すると考えられる。

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<注51>
open data を採用しない場合,さまざまな難しい判断やトラブル処理をしばしば行う必要が生じ,労力コスト的にみて,天敵カルテは早晩破綻すると予想される。

<注52>
著作のオリジナリティーについては,天敵カルテ投稿データを速報(Newsletter)扱いとし,学会誌に先立つ公開を許容してもらうよう,関係学会に対して働きかける予定である。

<注53>
圃場所在地をはじめ,各項目のプライバシー性の判断(公開・非公開の判断)は全て投稿者に委ねられる。都道府県名や投稿者名を非公開とすることも可能ではあるが,それではさすがにデータの意味がなくなる。最終的にはバランス感覚の問題であり,今後徐々に合意が形成されると考えられる。

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<注61>
デザインについては以前からIPMMLに対し,募集のアナウンスを行っていたが,3月10日に中国農試太田泉さんの立候補があり,デザインを依頼した。なお,今後もデザイン改良や新デザインの提案は自由であり,天敵カルテ企画幹事会(2001年3月以降は天敵カルテ運営委員会)の承認を経てデザインが変更される。なお,改良も含め,デザインに寄与したデザイナーの名前はトップページに記載される。

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<注71>
Portal site という語がある。ある分野の情報を収集したい時に最初にアクセスする「入口(portal)」サイト(ホームページ),を意味する。2000年3月20日に検索サイトで「天敵」をキーワードとして検索したところ,yahooでは3件,gooでは9,334件がヒットした。検索サイトへの登録にあたって前者は資格審査があり,後者は資格審査がないため,このようにヒット件数が大きく異なるが,いずれにしても天敵専門家が関与していないので,天敵について情報を収集したいと考えた人が初めてアクセスした場合は,核心情報に到達しにくい。これらの検索サイトもある意味での入口サイトではあるけれども,玄関口で迷うことになる。天敵カルテトップページにわかりやすい案内を置き,上記データベースの整備を行って天敵情報の検索を容易にし,他のシステムが作成したデータベースにもリンクするとともに,天敵研究機関・研究者・関連学会紹介ページ,天敵企業紹介ページ,日本植物防疫協会・農業改良普及協会・全農等関係機関紹介ページを設けてリンクすることにより,天敵カルテは真の入口サイト(information center)として機能する。

<注72>
Hub site(造語)という概念も成立する。ハブは車輪の中心を意味し,関西空港が目指しながらソウル金浦空港に敗北した「近隣諸国を含む地方空港と国際線の乗継空港」をハブ空港と呼んでいる。Hub site(乗継サイト)はそのアナロジーである。農文協のrural-netは農家の情報伝達・情報交換システムとして機能しているが,rural-netから天敵カルテにリンクすることにより,農家はrural-netを入口サイト,天敵カルテを乗継サイトとして,よく整理された豊富な天敵情報にアクセスすることが可能になる。なお,実用上はリンクに関して天敵カルテ(内部リンク)と他システム(外部リンク)とをあえて区別する必要はない。相互の了解さえ得られれば,他システムのページを天敵カルテの内部リンクと全く同じように扱えるし,逆もまた同じである。

<注73>
利用頻度の高いportal & hub siteには情報が加速度的に集積し,人材も集まって改良が進むため,さらに便利になって情報が集積するという増殖回路ができあがる。なお,蛇足であるが,利用頻度の高いサイトは,各種広告を貼り付けることにより,運営費を捻出することも可能である。ただし,現時点でこれをやると財務処理・事務処理・調整のためのコストがかえって高くついて割に合わないので(笑),可能性を指摘するにとどめておく。

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<注81>
ボランティアに数多く参加してもらうには,補足73に示した広告による中途半端な運営費調達法を採用せず,徹底した無料運営を行うほうが,より多くの賛同を集めると考えられる。

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<注91>
日本の技術者・研究者の層は非常に厚く,優秀な農家も多いため,多数のデータ集積に基づいて各天敵の効果的利用条件・方法を提示し,効率的な情報伝達・情報交換の場を提供するとともに,的確なアドバイス体制を整備すれば,草の根的に利用技術の開発・共有が進み,天敵利用が幅広く普及すると予想される。また,日本におけるこの方式に基づく成功は,南ヨーロッパ,アメリカ合衆国,さらに今後天敵の積極的利用を試みる国々におけるモデルになると思われる。

<注92>
天敵はIPMを実現するための資材のひとつであり,天敵を特別視せず,フェロモン,各種物理的防除資材,農薬等も合わせた総合的システムを作るべきであるとの指摘は,すでに何人もの方からいただいており,全く異存はない。しかし,天敵カルテ自体が現時点では未知数の非常に多いシステムであり,今すぐに手を広げると複雑化し,また焦点がボケてしまうことが懸念される。このため,現時点では天敵カルテ自体を同時に練習問題であるととらえ,さまざまな問題を解決しながら,タイミングをはかって徐々に他の資材も組み込んでゆき,最終的に「IPMカルテ」を構築する,という戦略を採用している。なお,補足72に示したように,「黄色灯カルテ」や「農薬カルテ(とくに薬害カルテは有用であろう)」が別個のシステムとして作成され,天敵カルテと有機的に結合させた「同時検索可能な統合システム」として「IPMカルテ」が成立しても,実用的には問題がなく,むしろより柔軟なシステムになる可能性がある。

<注101:最大目的>
繰り返し強調しておきたい。天敵カルテの定義を「天敵を利用したIPMのための統合支援システム」としたとおり,天敵カルテの最大の目的は,天敵利用を促進・普及し,日本の農業においてIPMを定着させるためのインフラ整備として,情報伝達・情報交換の舞台を提供することにある。----------より具体的に言えば,日本の複雑多様な栽培環境において,天敵利用者が天敵の利用技術や,刻々変化する害虫と天敵の状況に対するさまざまな判断能力を向上させるととも,現場の情報をすばやくフィードバックさせて天敵の改良・育種,高度な利用技術の研究・開発を行うために,優れた武器としてインターネットを利用し,開発から利用までのあらゆるレベルの情報を効率的に集積・流通させることにある。キーワードは「人と情報のネットワーク」である。やや陳腐なキーワードであるが,実践例は多くない。天敵カルテはこれを真に実践し,陳腐なキーワードを新鮮な形でよみがえらせることを目指している。

<注102:知識ベース推論 vs 事例ベース推論>
1980年代にエキスパートシステムが流行し,多数の研究レベル・商用レベルのシステムが構築された。エキスパートシステムは,専門家の知識を「データ間の因果関係」等のルールによってコンピュータに蓄積しておき(知識ベース),問題が与えられたら知識ベースからルールによって解決を引き出す(知識ベース推論),というシステムである。しかし,このシステムは最終的には実用化に至らなかった。人間の知識はルールに沿ったものばかりではないため,専門家の知識をルールによって完全に抽出することは無理があり,さらに,致命的な欠陥として,知識ベースに存在しない解決を引き出すことができなかったからである。----------ある問題の解決にあたって知識そのものが直接役立つのは問題が単純で易しい場合だけであり,問題が複雑で難しい場合は,一定の規範と過去の事例(法律と判例,辞書の意味と用法,等々)に基づいて解決を引き出すのがむしろふつうである。そこで,過去の経験と解決事例を蓄積しておき(事例ベース),問題が与えられたら事例ベースから過去の事例に近いものを抽出して解決を引き出す(事例ベース推論),というシステムが考案され,現在優れた成果を上げつつある。----------天敵カルテは当初より事例ベースを志向している。データの少ない現時点では事例ベース推論の機能が持ち腐れになっているが,成功事例だけでなく失敗事例を多数収集するとともに,それらに対するIPMML等でのコメントを集積することにより,「高次の事例ベース推論機能」を駆使しうる優れたシステムに成長する。農業分野における初の実用的事例ベースになるはずである。

<注103:公開テストランの意義>
「公開テストラン」という形は当初から想定していたものではない。当初は,可能な限り完全なシステムを構築し,すぐに利用できるようにしたい,と考えていたが,これは運営者と利用者を区別するいささか拙い手法であることがまもなくわかった。われわれ幹事会メンバーも含む多数のボランティアが自分の情報と余技と余暇を持ち寄ることにより,無限(レトリックです(笑))増殖システムの構築を目指すのであれば,むしろ未完成の形で提出し,さまざまなアイデアと批判をフィードバックさせて,(永遠に到達しない)完成品を目指すことが論理的帰結となるのは自然であり,これが公開テストランという形になった。なお,このように,天敵カルテの基本は永遠の「公開テストラン」であるが,それでは集中力が持続しない。そこで,公開テストラン期間を1年間と限定し,1年後には一般使用に耐えうる実用的なシステムのひとまずの完成を目指すことにした。この間には「企画」から「運営」へ転換するためのさまざまな整備も行わなければならず,1年間はちょうどよい時間であるように思われる。
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