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[IPM:600] トマトサビダニ
加藤さん,天野さん,河合章さん,IPMMLのみなさん
羽曳野田中寛です。
/年末から先週末まで,成績概要書(毎年の仕事を全てデータ整理し,
裏表1枚にコンパクトにとりまとめたもの)作成のためにセブンイレブン
状態だったので,遅ればせながらの報告。このトマトサビダニの報告も
概要書のひとつです。アウトラインを述べておきます。興味のある方は
意見をください。そのうち,研究会誌等のきちんとした報告にします。
Acrobat をマスターして田中のHPにも掲載するようにします。
(1)トマトサビダニの発生予察法と防除法確立のために,発生生態調査が
不可欠である(現時点では日本になし)。
(2)大阪府豊能町の無加温土耕トマトハウス5棟で6〜10月に調査した。
(3)耕種概要は,5〜6月定植,10月収穫終了。薬剤はほぼ定植時粒剤
処理のみ。6月マルハナバチ,7〜8月オンシツツヤコバチ+イサエア
ヒメコバチ・ハモグリコマユバチ放飼。
(4)6〜10月の7〜14日毎に,各ハウスの定点16株の茎(上位,中位,
下位),最上位花,葉(中位,下位),合計約450か所をルーペで2cm2
観察した(定点調査)。
(5)多発生ハウス(№1ハウス)と中発生ハウス(№4ハウス)では,
発生株に印を付けて,その周囲の株も含め,(4)の方法で追跡
調査した。・・・(4)と合わせると5〜6時間かかって,目が点になる!
(6)終了前に各ハウスの全株の被害調査を行った。
結果
(1)ルーペ調査による発生予察の可能性:農家による初発株の
確認は7月31日で,8月に続々と発生株が確認されたが,定点
調査では9月4日に初めてサビダニを検出した。・・・したがって,
茎葉症状発生前に「ルーペ調査で発生予察する」のは不可能
である。450か所の調査で茎は5千分の1,葉は5万分の1の
面積しかカバーできていない。あらためてわかってしまった。
(2)発生源:この農家では毎年№1ハウスで初発・多発するが,
山間部の寒冷地で,冬〜春はハウス周辺にナス科雑草・
ナス科野菜はない。購入苗(5月定植)と自家苗(6月定植)を
併用するが,№1ハウスは購入苗・自家苗を交互に使っている。
・・・ということで,残念ながら,発生源(越冬場所)は不明だった。
植物病理の調査と同じで,検出限界の問題が大きすぎる。
(3)低密度時のサビダニの移動:茎での上下移動は速いが,
葉の重なりを経由した隣接株への移動は2〜3週間かかる。
(4)低密度時のスポット散布の有効性:実際に低密度時に
ケルセンをスポット散布してみた。スポット散布後,サビダニの
再検出までに2〜3週間,再多発までにさらに1〜2週間かかった。
薬剤散布ムラ(これが盲点かつ重要だけど・・・)により生き残った
サビダニの密度がモトに戻るのに3〜4週間を要する。(5)の
ように,コハリダニのおかげでサビダニが再多発しない場合も
多かった。
(5)コハリダニ(天敵):コハリダニはサビダニより移動分散が速く,
ケルセン散布後1〜2週間で侵入してくる。コハリダニのおかげで,
スポット散布後に再多発しない場合も多かった。コハリダニは
田中IPM280で同定者紹介をお願いしたところ,Acari(ダニML)から
回答があり,松山東雲短大の芝実教授に同定していただいた。
コツメナシコハリダニ属の一種で,芝教授に謝意を表する。
千葉大天野さん,野菜試河合さんの(トマトサビダニの天敵の)
コハリダニも同種のようなので,天野さん,河合さん,コメントを
いただけると幸いです。このコハリダニが実用化できると
いいのですが・・・。
(6)高密度時のサビダニの移動:農家の厚意により,№1ハウス,
№4ハウスの大部分にはダニ剤を散布せずに追跡調査させてもらった。
高密度時には,収穫・摘葉等の作業にともなって,サビダニは急速に
同一畝の隣接株に移動分散する(作業者がサビダニを運ぶ)。また,
飛び火状の分散は中位葉で症状が見られ,作業者と摘葉満載
運搬車が犯人と考えられる。
(7)各ハウスの結末:№1ハウス---株総数699のうち,被害発生
株数は203(うち,50%以上枯死は24株,20〜50%枯死は51株)。
収穫終期に多発したため,収量減は5%未満。もうちょっとこまめに
スポット散布していれば,収量減は№4ハウス並であったと
思われる。№4ハウス---569株のうち被害発生は81株。収量減は
1%未満。もうちょっとこまめにスポット散布していれば・・・(笑)。
スポット散布は私が担当したので,メゲた。なにせ,うちの試験場
からこの農家まで片道1時間半かかるから。他のハウスでは適期の
スポット散布により,被害株数は1〜4で,実害は無視できた。
(8)他害虫:ハウス開口部ネット被覆,天敵放飼等により実害なし。
(9)まとめ1:このハウスの方法がそのままそっくり,かとう農園に
適用できると考えないほうがいいけれど,低密度時(ハウスの
2〜3か所でサビダニの被害症状が確認された時)のスポット
散布はあらためて有益と考えられます。今までロクに検証せずに,
スポット散布,スポット散布と唱えていたことを反省しますね(笑)。
一旦発生したあとは,今後の問題。全面徹底散布をして検証する
ことになるのでしょうね。豊能町のこの農家では10月に一旦,
作が切れるのが非常に幸いしていて(笑),そういう検証は
できません。
(10)まとめ2:作型,周囲の状況等によって発生パターンがどう
違うか? コハリダニ等の天敵がどう違うか? 発生源(越冬
場所等)がどう違うか? ハウスによってたぶん非常に違うと
思われるので,今後さまざまなハウスで調査して,全体を
把握する必要があるでしょう。トマトサビダニをうまくやっつける
ためには,一見回り道のようだけど,こういう基礎調査が
不可欠です。
(11)蛇足:加藤さん,ゴーグルってなんですか? 私のサビダニの
ページはそんなに小さなフォントと使ってないので,老眼鏡なしでも
見えると思うのですが・・・(笑)。
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田中 寛 (たなか ひろし)
大阪府立農林技術センター病虫室
(兼)大阪府立大学連携大学院
〒583-0862 羽曳野市尺度442
Phone: 0729-58-6551(内232)
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