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[IPM:994] Re: 土着、導入天敵



松永様、IPM-MLの皆様

九大・生防研の高木です。

> 化学農薬にもベネフィットとリスクがある。天敵農薬にも当然、ベネフィットとリ
>スクがある。それらを比較して、トータルでは化学農薬よりも天敵農薬の方が環境に
>よい、という結論になれば、納得なのですが、そういう議論はこれまで行われてこな
>かったのでしょうか?

化学農薬のリスクとしては、第1に環境汚染や食品への残留毒性が問題になるでしょ 
う。ただし、わが国で使われている多くの化学農薬は、基準通りに使っていれば一応 
は問題ないといわれています。まあ、お上の言うことなど信用できないとか、いくら 
安全と言われるものでも、環境ホルモンとか長期にわたる微量物質の蓄積とか問題は 
あります。とにかくオープンな環境中に人工の化学物質を無秩序に放出し続けるの 
は、出来るだけ減らすべきだと言うのが減農薬の思想でしょう。化学農薬のベネフィ 
ットとリスクについては、もっとありますが、これ以上ふれません。
一方、天敵を利用した有害生物の防除、いわゆる生物的防除のリスクとして現在問題 
になっているのは、外来生物の導入に伴う環境に対するリスクです。マングースや淡 
水魚類(カの防除や水草の防除)などの導入が、土着生物相に大きな影響を与えたこ 
とが明らかになり、有用生物といえども、その導入にあたっては慎重にあるべきだと 
言うのが、今日の常識です。どのような生物の導入に特に慎重にあるべきかは、十分 
に研究された訳ではありませんが、その生態系の栄養段階でトップに立つことになる 
であろう生物種の導入、特に閉鎖系に近い生態系(陸水系や海洋島)への導入には慎 
重にあるべきだというようなことが言われています。天敵昆虫や天敵ダニの場合は、 
施設の中では栄養段階のトップに立つことがあるかも知れないけれど、外に出てしま 
えば、それらを餌にする動物はいくらでもいるので、まず問題にならないと思いま 
す。ただ、環境に対するリスクについては、いずれにしても、十分に留意すべきであ 
ることに変わりはありません。欧米では、生物的防除の環境に及ぼす影響について、 
大論争が起こっており、何冊もの本が出ていますし、日本でも、シンポジウムや学会 
の小集会等で色々議論されています。
日本では、天敵を「天敵農薬」として登録する場合には、環境に対するリスクも含め 
て、かなり厳しく検討することになっています。逆に、農薬登録の煩雑さ(メーカー 
にとって費用がかかる)が、土着天敵でさえも、企業が「天敵農薬」として開発する 
ことに躊躇する原因の1つになっています。
また、天敵の場合、環境に対するリスク以外には、ほとんどリスクは考えられませ 
ん。導入天敵が土着天敵と競争して、かえって防除効果が低下すると言うことも理論 
的にはありえますし、ギルド内捕食と言って最近ちょとした研究ブームですが、実際 
の農業の現場で問題になったという例は聞きません(論文としては、色々実例も出さ 
れていますが・・・)。また、天敵はいくら増えてその死骸が環境中に蓄積しても人 
工物ではないので、化学農薬のような環境汚染は考えなくていいでしょう。生産物に 
アブラムシのマミーが付いて、コスメティックペストだというのがあるそうですが、 
これはどう考えればいいのかぼくにもわかりません。

> さらに、議論を推し進めれば、省力化という環境影響とは関係ないベネフィットを
>どう評価するか、とか、天敵農薬をジェット機や宅配便で輸送することの環境負荷も
>考えなくちゃ、という視点も出てくるはずです。どんどん話がややこしくなってくる。

いかに天敵を省力化して利用するかは、今後の課題です。大量増殖の低コスト化と 
か、バンカープラントの利用とか・・・。

>  これまでの土着・導入天敵のやりとりからは、ずれてしまうのですが、連続性のあ
>る疑問かな、と思い、このメイルを出してみることにしました。本当に、化学農薬よ
>りも天敵農薬の方がよいのですか?

化学農薬の利用と天敵農薬の利用を対立的に考えるのでなく、化学農薬の使用を出来 
るだけ減らし、しかも、農家の病害虫防除に掛ける手間を減らすために、どのような 
病害虫防除体系を構築するかが問題でしょう。実際は、これは、なかなか難問ですが 
・・・。



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九州大学大学院農学研究院生物的防除学講座
高木 正見
Masami Takagi
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