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[IPM:995] 環境へのリスク
高木様 和田様、藤澤様、IPMMLの皆様
環境goo 松永です。長文、お許し下さい。
皆様のツボにはまったのか、いろいろなことを教えていただけてうれしいです。
ただ、私の書き方がまずかったのか、いろいろと誤解を受けてしまいました。
田中師匠から「IPMが大事なのであって、化学農薬否定ではないんだよ。化学農薬
も天敵も、上手に利用するんだよ」と取材に行った折に、再三言われました。だから、
天敵農薬がよくて化学農薬が悪いとか、その逆だ、とか全否定全肯定の論議をするつ
もりは全くないのです。
もちろん、天敵農薬は効かない、なんていうつもりもありません。メーカーの営業
妨害するつもりなんて、全くありません。今、天敵農薬という商品がある、という事
実こそが、天敵農薬の価値の最大の証拠です。
さらに、ごめんなさいを一つ。
私にいろいろと教えてくださった方の真意は「天敵農薬が、化学合成農薬よりも効
果があるというデータが皆無」です。虫が捕食し合うのは当たり前なので、「天敵が
効くか、効かないか」という話ではありません。いろいろと誤解を招き、すみません。
ただ、現実に化学農薬の一部を天敵農薬で代替する、という形で普及が進んでいま
すので、やはり、化学農薬と天敵農薬の比較は必要であるように思います。
> 化学農薬のリスクとしては、第1に環境汚染や食品への残留毒性が問題になるでしょ
> う。ただし、わが国で使われている多くの化学農薬は、基準通りに使っていれば一応
> は問題ないといわれています。まあ、お上の言うことなど信用できないとか、いくら
> 安全と言われるものでも、環境ホルモンとか長期にわたる微量物質の蓄積とか問題は
> あります。とにかくオープンな環境中に人工の化学物質を無秩序に放出し続けるの
> は、出来るだけ減らすべきだと言うのが減農薬の思想でしょう。化学農薬のベネフィ
> ットとリスクについては、もっとありますが、これ以上ふれません。
天敵のベネフィットとして必ず「化学農薬を使わずにすむ」ということが第一に挙
げられます。つまり、化学農薬のリスクと天敵のベネフィットは裏表の関係なのです。
ここで、私は「あれっ?」と思うのです。それって、化学農薬のリスクが存在しな
い限り、天敵農薬の存在意義はないってこと?
さらに、化学合成物質=有害、という概念は消費者には受けますが、事実は表して
いないことは、皆さんよくご承知ですね。
現実には、確かに環境ホルモンと疑われている農薬もありますし、副産物がダイオ
キシンだったという歴史もあります。やはり、減農薬は必要です。
でも、天敵農薬に化学農薬以上のリスクがあったら?(この場合のリスクは、収量
うんぬんとかできた品物の価格とかコスト増というようなことだけではなく、やはり
生態系攪乱が重要ですね)
> 一方、天敵を利用した有害生物の防除、いわゆる生物的防除のリスクとして現在問題
> になっているのは、外来生物の導入に伴う環境に対するリスクです。マングースや淡
> 水魚類(カの防除や水草の防除)などの導入が、土着生物相に大きな影響を与えたこ
> とが明らかになり、有用生物といえども、その導入にあたっては慎重にあるべきだと
> 言うのが、今日の常識です。どのような生物の導入に特に慎重にあるべきかは、十分
> に研究された訳ではありませんが、その生態系の栄養段階でトップに立つことになる
> であろう生物種の導入、特に閉鎖系に近い生態系(陸水系や海洋島)への導入には慎
> 重にあるべきだというようなことが言われています。天敵昆虫や天敵ダニの場合は、
> 施設の中では栄養段階のトップに立つことがあるかも知れないけれど、外に出てしま
> えば、それらを餌にする動物はいくらでもいるので、まず問題にならないと思いま
> す。ただ、環境に対するリスクについては、いずれにしても、十分に留意すべきであ
> ることに変わりはありません。欧米では、生物的防除の環境に及ぼす影響について、
> 大論争が起こっており、何冊もの本が出ていますし、日本でも、シンポジウムや学会
> の小集会等で色々議論されています。
> 日本では、天敵を「天敵農薬」として登録する場合には、環境に対するリスクも含め
> て、かなり厳しく検討することになっています。逆に、農薬登録の煩雑さ(メーカー
> にとって費用がかかる)が、土着天敵でさえも、企業が「天敵農薬」として開発する
> ことに躊躇する原因の1つになっています。
この説明、理解しやすいです。高木さん、ありがとうございます。
でも、これもやっぱり、あれっ? となる。
あーあ、まどろっこしいですね。やっぱり、本当のことを言っちゃいましょう。本
当のことを書かないから、たくさんの誤解を受けてしまいました。
結局、私の最大の関心は、環境への影響なのです。皆さんが非常に神経質になって
いる、あれなんです。
私は遺伝子組み換えも取材しています。私には、遺伝子組み換えと天敵の論議がだ
ぶって見えます。
遺伝子組み換えでも「食糧増産できるし栄養価の高い物質も使える。遺伝子組み換
えはすごい技術だ」と言う研究者と、「今は目に見えない生態系攪乱が将来予想され
る。組み換え技術は慎重に対応しなければならない」という生態学者の間で、対立が
起きています。以前は「遺伝子組み換えは食べたら危険」というような話が前面に出
ていましたが、今は生態系攪乱に対する取り組みが議論の中心です。そして、学問的
な追究が難しく、かなり政治的な思惑もからんでいるために、Natureに1度載った論
文をNatureが取り消し、さらにその取り消しには企業の圧力がかかっているとして非
難される、というような泥仕合めいたことになっています。(これは、日本ではあま
り報道されていません。消費者の関心は相変わらず、食べたら危険、ですね)
私は、遺伝子組み換えの取材の折、生態学者から「組み換え種と野生近縁種の交雑
の可能性はほとんどないから、組み換え種の遺伝子拡散が起こらない、という考え方っ
は極めて危険だ。確率ゼロでなければ、自然はどんなことだって起こりうる。そのこ
とは、この地球の歴史と今ある生物が証明している」と、さんざん聞かされました。
これをきっかけに、移入種の問題に関心を持ち続けています。
だからといって、誤解しないでください。私は「マルハナバチ反対、外来天敵反対」
なんて言うつもりは、全くないのです。人はその時々の技術を駆使して最上とおもわ
れる行為をし、その検証を続けるしかないのですから。だから、すごいベネフィット
があれば小さいリスクに目をつぶるのもあり、です。
そういう意味も込めて、私は先日のコラムのタイトルを「天敵の世界に、ヒトの愚
かさと知恵を見た」としました。
だから、しつこくしつこく、問いかけるのです。天敵農薬のベネフィットは何です
か。リスクはなんですか。定性的な話でなく、データを教えてください。どの学術誌
のどのページにありますか? その学術誌のIFは? と。
どうぞ皆様、お教えください。
それにしても、天敵利用を推し進めている方々に、こういう失礼なこと(企業の方、
本当にごめんなさい)を書いて、読んでいただけるIPMMLってすごいですね。さらに、
この論議がクローズでなくだれでも読める、という点が素晴らしい。改めて、IPMML
が存在する意義を思い知らされました。
前回のコラムで、次回天敵カルテを紹介する、と書きましたが、今週水曜日にアッ
プデートするコラムは急遽、添加物問題に差し替えています。7月第1週のコラムで、
天敵カルテのシステムをご紹介し、第3週でそれまで取り上げきれていない、環境へ
の影響について書こうと考えています。
私に個人的にメイルを下さったり、資料を送ってくださった方も大勢いらっしゃい
ます。本当に感謝します。今後ともご指導を、よろしくお願いいたします。
松永 和紀(まつながわき)
waki@bc.iij4u.or.jp